森 絵都著 理論社

「おめでとうございます、抽選にあたりました!」死んだはずのぼくの魂の前に突然現れた天使が言った。なんでも、本来ならここで輪廻のサイクルからはずされるところなのだが、抽選に当たったので再挑戦ができるというのだ。そうしてぼくは、自殺を図ったある少年の体に宿って生き返り、なくしている前世の記憶を取り戻すというゴールに向かって修行を積むことになった。
ぼくが体を借りた少年、つまり天使の業界用語でいう「ホームステイ」先は、両親と兄のいる家庭だった。最初は、自殺から生き返ったぼくを気遣ってくれる優しい家族だと思っていたが、実際は、母親はダンス教室の先生と浮気をしているし、父親は悪徳商法で幹部がごっそり逮捕されたお陰で部長になったと喜ぶ自分勝手な人間で、兄は顔を合わすたびに憎まれ口をたたく冷たいやつだった。しかも、初恋の下級生の女の子は援助交際をしているのだった……。
児童書は大人になってからはほとんど読んだことがなかったが、児童書翻訳講座の先生のお薦め本だったので読んでみた。そうしたら、不倫やら援助交際やら自殺やらが出てきて、これが本当に子供の本なの!?と、ぶっ飛んでしまった

どうやら、最近の児童書事情は昔とはずいぶん様変わりしているようだ……。
しかしながら、この本でもやはり、最初は投げやりだった少年が、周囲の人間の思いを知ることによって成長していく様子が描かれている。人を思いやる気持ちに目覚め、家族や友達と心を通い合わせるようになる。テーマはとても重苦しいけれど、冒頭から登場する天使と少年の掛け合いはコミカルだし、文章のタッチも軽い。その中で、少年の心の動きが丁寧に描写されていて、つい引き込まれてしまった。今まで知らなかった新しい世界をのぞいた気がした。